ANA国内線【PR】
花村萬月 「ブルース」
 芥川賞作家・花村萬月氏の初期の代表作「ブルース」。氏の作品の中では1、2を争う素晴らしい作品である。

「南シナ海の烈風。眼下で砕ける三角波。激しい時化に呻く25万トンの巨大タンカーの中で、村上の友人、崔は死んだ。仕事中の事故とはいえ、崔を死に至らしめた原因は、日本刀を片手に彼らを監督する徳山の執拗ないたぶりにあった。徳山は同性愛者であった。そして村上を愛していた。村上と親しかった崔の死こそ徳山の嫉妬であり、彼独自の愛の形であった―。横浜・寿町を舞台に、錆び付いたギタリスト村上とエキセントリックな歌姫綾、そしてホモのヤクザ徳山が奏でる哀しい旋律。芥川賞作家が描く、濃密で過剰な物語。」~あらすじより

まさに萬月の暴力性、背徳性、宗教観などが見事に融合し、昇華した作品である。労働者の筋肉を「酒とホルモンで作られた」と形容するあたりはまさに萬月ならではの仕事。そして物語全体を抱擁する悲しみ。とにかくすべては悲しみに包まれている。人生を諦めたインテリギタリストの村上、ノンケの村上を愛してしまう自分の容姿にコンプレックスを持つヤクザ、徳山。港湾労働者街を舞台に錯綜する愛と憎しみ。夏の夜明け前に降る霧雨のように冷たくやわらかく物語りは進行してゆく。そして作品の中から聞こえてくる寂しげなブルースのリズム。文章からリズムが聞こえてくる作品は間違いいなく良質な作品だ。漱石の「坊ちゃん」しかり、売れすぎてしまったため文壇の評価は低い春樹の「ノルウェイの森」しかり。萬月はブルースのリズムで登場人物が背負う悲しみや宿命を見事に歌い上げてゆく。そして村上と徳山、二人は究極の愛の結末を迎えることとなる・・・。

萬月氏は辞書で副詞を調べるところからこの小説を書き上げたらしい。なので文章の巧拙で言ったら決して巧くはない文章である。小説善し悪しは文章の巧みさではない。想いが伝わるかどうかだ。その意味で「ブールス」は最高の小説と言っても過言ではない。初期の大江健三郎の作品を読んでるときに感じる「何かをしたくなる激しい衝動」
を同じように感じることのできる作品である。

あまったるい恋愛小説に飽きた方には是非読んでいただきたい作品である。
by zonestructure | 2004-06-27 21:47 | 愛すべき本
アナム&マキ 「ゴッタ」 >>